「1939年版トーマス・クック大陸時刻表」で遊ぶ

 昨日書いた「夢の旅人」たちの戦前の鉄路の旅の足跡を追ったり、戦前の欧州映画や小説の舞台を追跡するときは、「1939年版トーマス・クック時刻表」(復刻版Cook's Continental Timetable, August 1939 Hippocrene Books)が大いに役に立っている。この時刻表には、シベリア鉄道や欧州航路、ロンドンからシドニーまでの定期飛行船の時刻表も掲載されている。
 ホテルなどの広告も載っており、その半数以上が今も健在である。
 話は少々飛ぶが、五年ほど前の暮れ、生まれ故郷の佐賀県唐津市にあるシーサイド・ホテルhttp://www.seaside.karatsu.saga.jp/で、思いもかけない人と出会うことができた。映画「グラン・ブルー」のモデルとしても有名な潜水家であり思想家である故ジャック・マイヨール氏その人である。なぜ、マイヨール氏がここにと思ったが、ロビーで話しかけると1927年に上海のフランス人租界で生まれ、幼少時代に毎年のように唐津で夏休みを過ごし、最初に素潜りをしたのも、イルカと泳いだのも唐津でのことだったということを気さくに話してくださった。
戦前は、マイヨール氏一家ばかりではなく多くの欧米人が上海から唐津を中心とする北九州のリゾート地にヴァカンスに訪れていたという。後日、この1939年版のトーマス・クック大陸時刻表で博多と上海を結ぶ航路があったに違いないと調べてみたが、見つからなかった。念のために、唐津で調べると、驚いたことにこれがあったのだ。Japan-Bombay Lineという横浜から上海経由でボンベイへ向かう航路の寄港地としてKaratsuの名が記されていたのである。
 この時刻表でもう一つ面白いのは、トーマス・クック旅行会社の自社広告だ。「弊社のIIT(Inclusive Independent travel=包括個人旅行)システムは“トラブルなしのトラベル”を実現いたします。皆様のお出かけ前にすべての手配を済ませ、費用明細を見積もり書にてご覧入れます。このシステムは、個人旅行はもちろん、家族旅行、休暇やビジネスでお出かけの方にもうってつけ。エコノミーにもデラックスにも、皆様のご希望通りに仕上げることが可能です。IITは、思いのままの旅ですから、コースごとのパンフレットはございません。かわりにご要望に基づく見積もり書を無料でお作りしております」とある。今でこそ、IIT航空運賃という言葉が旅行業界ではふつうに使われるようになったが、トーマス・クックは戦前からオーダーメイドの包括個人旅行をコーディネイトしていたのだ。
なお、この時刻表は日本のAmazonで¥ 4,518で売られていた。
☆右上の写真は ハプスブルク家の宮廷列車を復元した車両の座席

Cook's Continental Timetable, August 1939

Cook's Continental Timetable, August 1939