ヨーロッパ・アルプスを旅する その2

スイス以外のヨーロッパ・アルプスのイチオシは、イタリア人が自慢する“アルプスのサニー・サイド”。つまり、スイス・アルプスの南に広がる(一部、フランス、オーストリアのアルプスとも接する)イタリア・アルプスでのハイキングだ。
中でも、ヴァッレ・ダオスタ(アオスタ渓谷) http://www.regione.vda.it は、アルプスの“4人の女王”モンブランモンテローザマッターホルン、グランパラディーソを間近に眺めることができる絶好の位置を占める。イタリア人の自慢は、風景やローマ時代からの城塞が残る史跡ばかりではない。「スイスと同じかそれ以上のアルプスの眺めが、溢れる陽光の下で眺められて、世界に冠たるイタリア料理とワインが堪能でき、しかも、物価は安いのだから、アルプスの裏側にこもる人の気が知れない」と自慢するのだ。
確かに、マッターホルン(イタリア名チェルヴィーノ)の麓の町、チェルヴィニア(Cervinia)のHotel Punta Maquignaz http://www.puntamaquignaz.com/では、ツェルマットのどのホテルで見るよりも間近に迫るマッターホルンの雄姿を眺めることができた。そのレストランで食べた地元のチーズを使ったサーモンとキャヴィアのリゾットの味は一生忘れられない。
また、モンブランの南のクールマイユール(Courmayeur)市のHotel Club Mont Blanc も印象に残る。シェフのおすすめのデグスタシオン・メニューはポーション控えめのメイン・ディッシュを4種類味わえるという懐石風の出し方で、カモシカ肉や羊のチーズを使った料理が美味しかった。ホテルの地下18メートルには、手作りのハムやソーセージ、ジャム、ピクルス、それにピエモンテ産の赤ワインが並べられたセラーがある。そこは“食の博物館”とも呼びたくなる充実ぶりで、ここなら一生閉じこめられてもいいと本気で思ったものだ。
さて、もうひとつのおすすめは、オーストリア・アルプスを横断する旅だ。と言っても、完全踏破するのではなく、4〜5カ所ほどのオーストリアに点在する
アルプスのリゾートを列車やバスで移動しながら訪れるのである。
私は、同じようなコースを3回ほど旅したが、毎回新発見があって全く飽きることはなかった。
おすすめの高原リゾートをスイスとの国境に近い西の方から挙げていくと、冬はスキー場として世界的に有名だが、6月から9月にかけては、アルプスの高山植物を鑑賞しながらのハイキング「ブルーメン・ワンデルンク」(花の散策)が楽しめるサンクト・アントンhttp://www.stantonamarlberg.com/が筆頭だ。花の散策を山小屋に泊まりがけで行なう本格派も多い。ハイキングコースの総延長は90kmもある。
私のおすすめは、サンクト・アントンの南西にあるパッテリオール山までのハイキングコースだ。パッテリオールはマッターホルンのような堂々とした孤高の山だが、どういうわけか日本ではほとんど知られていない。道の途中ではエーデルワイスなどの高山植物も観察できる。そう言えば、サンクト・アントンの町の本屋ではチロルのローカル出版社Verlag Lohmannが出している「あふれる魅力−アルプスの花」という日本語の図鑑を売っていた。花の散策には欠かせない。 
サンクト・アントンの次は、チロル州http://www.jtc.at/cmsjtc/cms/front_content.php冬季オリンピックの都市インスブルックに向かおう。インスブルックの街から北側を眺めるとノルト・ケッテ(北連峰)と呼ばれる標高2400mに及ぶ峻厳な峰々が威圧する。しかし、南側には霜降り松(ツィルベ)の林を抜ける平坦なハイキングコースが美しい街を見下ろしながら延々と続くという好対照を見せており、初心者でもハイキングが簡単に楽しめる。
インスブルックからは、ザルツブルク郊外のサンクト・ギルゲンの町へ。途中、アルペンスキー世界選手権開催地として有名なザールバッハhttp://www.saalbach.com/default_neu.phpに泊まったり、世界的なスキー・リゾートであるキッツビュールhttp://www.kitzbuehel.com/en/default.aspに泊まるのもよいだろう。
サンクト・ギルゲンは、映画「サウンド・オブ・ミュージック」で世界に名を知られるようになった湖水地帯ザルツカンマーグートの町だが、湖水地帯の美しさを気軽に、そして十分に満喫させてくれるのが箱庭のような湖水を俯瞰するアルプスの空中庭園とでも呼びたくなるパノラマルントヴェークのハイキングコースだ。サンクト・ギルゲンからパノラマルントヴェークの始点のあるツヴェルファーホルンの山頂(1521m)まではロープウェーで簡単に登れる。
オーストリア・アルプス横断の仕上げは、ドナウ河を見下ろすウィーンの森の展望台レオポルヅベルクの丘(425m)から、カーレンベルガードルフの村へと向かうなだらかな森の散歩道のハイキングにしよう。木立の深い森の道を小1時間も歩くとやがて視界が開け、葡萄畑とドナウ河がドラマチックに現れる。
 葡萄畑に囲まれた新酒(ホイリゲhttp://language.tiu.ac.jp/wien/1/menu.htm)を飲ませる造り酒屋(これもホイリゲと呼ばれる)で喉を潤すのがウィーンの森歩きの醍醐味だ。ホイリゲの入り口にぶら下げた松の枝束が「新酒飲ませます」のサインだ。おすすめはHirtとSirbuの2軒。新酒は1/4㍑のジョッキーで振る舞われる。初秋には、葡萄の絞り汁の甘いモストや発酵の進んだ濁り酒シュトゥルムも味わえる。いずれも一杯が400円前後だ。帰りは、ベートーヴェンが「田園」の曲想を得たハイリゲンシュタットの「小川」づたいに歩き、ベートーヴェンが短期間住んだことのあるホイリゲ・マイヤーで、総仕上げをしてみるのが私の定番コースだ。
☆写真は サンクト・アントンの南西にあるパッテリオール山