異国の街の番地入り精密地図の入手法 その1

 自分のこだわる異国の街の旧市街を路地裏や抜け道に至るまで知り尽くしたいと思ったら、外国の市役所で発行している土木工事用の地図が一番である。この地図には、すべての建物に番地が入っており、旅から帰って住所をもとに正確な位置を割り出したいときなどに大変役に立つ。もっとも詳しいものになると500分の1という縮尺もある。地図上の1センチが実寸の5メートルであるから、一つの建物がマッチ箱ぐらいの大きさがある。 このような詳細な都市地図の存在を知ったのは、1986年頃のこと。今はミュージアム・クォーターhttp://www.mqw.at/jp/(日本語サイト!)と呼ばれるようになったウィーンの4つの美術館やホール、レストランなどが集まる建物Messepalastの中庭でのことだった。元々、ハプスブルク家の“厩舎宮殿”だったところで、当時は見本市会場として使われていた。
 その中庭で、ウィーン大学の建築科の学生が建築調査のフィールドワークに使っていたのが番地入りの詳細地図であった。「これはガイドブック作りの強力な武器になる」と直感し、即座にどこで買えるのかを聞き出した。幸いにも近くの市庁舎別館にあるVermessungsamt(測量局)で買えることが分かりすぐにその足で買いに出かけた。そこには、不動産登記用や防災用、地下工事用などさまざまな用途別、縮尺別の地図が数多く揃っていた。
 以来、パリやローマ、フィレンツェ、ベルン、香港と20都市ほどのこの種の地図を買い集めた。最も詳しいものになるとパリのように500分の1という縮尺もあった。地図上の1センチが実寸の5メートルであるから、一つの建物がマッチ箱ぐらいの大きさがある。
 最初は、ガイドブックの物件の確認や取材を終えて帰国後に新たなホテルやレストランがオープンしたときに図示するのに活用していたが、そのうちこの白地図を持って古都を旅し、建築やマンホール、噴水、銅像、郵便ポスト、風変わりな店やバーといった発見を4色ボールペンで色分けして書き込んで、自分だけのマップガイドを作るのが趣味になってしまった。
スイスのジュネーヴで市役所に行って地図を買おうとしたら、こちらのガイドブック作りの熱意を買ってくれて、「ガイドブックでの地図使用を許可する」というお墨付きをただでくれた上に、スイス各都市の測量局の紹介状まで書いてもらうことができた。地図作製の現場も見せてもらったが、当時はコンピューター化しておらず、20人程のスタッフが大きな製図板に張り付いて作業をしていた。
イタリアの某都市の測量局で地図を購入しようとしたときは、「いちいち複写を取ることになるので1週間後に取りに来い」と言われた。「明日にはローマを離れるので、なんとかしてもらえないでしょうか」とお願いすると、ニヤリと笑って「領収書無しでもいいか?」と聞いてきた。その頃には“イタリア人気質”がだいぶ分かってきていたので、即座に「領収書なんかいりません」と叫んだ。すると、「3時間後に取りに来い」と言われた。つまりは、彼ら公務員の小遣い稼ぎに協力したわけだ。
これらの地図は、「ウィーン旅の雑学ノート」や「フィレンツェ旅の雑学ノート」を書くときに大いに役に立った。しかし、この種の地図の入手はお役所相手だけにその国の言葉ができないと容易ではない。また、最近は、都市の再開発などが増え、最新版を用意しないと役に立たない都市も多い。
そこで、このような地図がインターネットで閲覧できる時代が来ないものかと常に思っていたが、ブロードバンドの普及でようやくデジタル・マップのウェブ公開が実現してきたようだ。
☆右上の写真はウィーンのミュージアム・クォーターhttp://www.mqw.at/jp/

地図で知るヨーロッパ (平凡社エリア アトラス)

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世界がみえる地図の絵本

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