オーストリア海軍の歴史 その 5

個人的興味からオーストリア海軍の歴史を調べ続けているが、長崎市歴史民俗資料館http://www1.city.nagasaki.nagasaki.jp/siryoukan/の館長さんのご好意により、当ブログhttp://d.hatena.ne.jp/Europedia/20070816で紹介した、同館所蔵のオーストリア海軍ゆかりの長崎刺繍ペナント画像のブログ引用の許可をいただいたので、早速掲載させてもらうことにした。

このペナントは、オーストリア・ハンガリー帝国海軍の戦艦Erzherzog Franz Ferdinandフランツ・フェルディナンド大公)号(約14,500トン)の乗員Rachmayer Istvan氏(階級不詳)がオーダーしたと思われる見事な長崎刺繍http://www.pref.nagasaki.jp/bunka/hyakusen/kotohajime/060.htmlだ。 

 同氏の1911年から15年に至る同艦勤務の記念にオーダーされたもので、艦の雄姿を中心に同氏が戦艦で訪れたと思われる20カ国の海軍旗が周囲を囲む素晴らしいものだ。
オーストリア海軍は長崎を「極東における母港」と呼ぶほど、長崎がお気に入りの寄港地であったようだ。そして、長崎刺繍のペナントはオーストリア海軍の士官・兵にとって「定番の極東みやげ」だったそうだ。

 そう言えば、神戸大学の「青野原俘虜収容所展示会、講演会・再現演奏会 in Tokyo 2009」  http://www.office.kobe-u.ac.jp/crsu-chiiki/aono2009.html のページにもオーストリア海軍軍人の注文品と思われる「長崎刺繍のペナント」の画像が掲載されている。どういうわけか、「俘虜製作品 刺繍」というキャプションが付いているが。


 当欄の「オーストリア海軍の歴史その3」http://d.hatena.ne.jp/Europedia/20060720で書いたように、フェルディナント大公が日本親善旅行の際に乗った巡洋艦エリザベート皇后号」(約4,030トン)は、第一次大戦勃発直前の1914年春から夏にかけてアジア諸国を親善訪問中だった。

 長崎歴史文化博物館http://www.nmhc.jp/の資料室でマイクロフィルム化された当時の「長崎新聞」を調べてみると3月9日に長崎に入港した「エリザベート皇后号」は、12日に出港して別府へ向かったと書かれていた。最初、「フランツ・フェルディナンド大公号」は、「皇后号」に随伴して来港したのだろうと推測していた。

 第一次大戦勃発時にドイツの租借地中国の青島付近の膠州湾内にいた「エリザベート皇后号」は1914年11月2日、戦況の絶望的状況を見極め、青島の膠州湾内に自ら艦を沈める。11月7日には、ドイツ軍は日本軍に降伏して青島を明け渡した。

 だから、「大公号」も、一緒に戦かい降伏して乗員が長崎に抑留され、抑留中にオーダーしたのかとも思ったが、後で調べたらそれはあり得なかった。「大公号」は、後にアドリア海でイタリア海軍と戦い、戦後はイタリア海軍に接収され1926年にスクラップにされているからだ。

 青島にいたドイツ東洋艦隊のシュペール提督は開戦後すぐに港内封鎖を恐れて戦場を離脱しドイツ本国へ向かったので、それについていったのかとも考えたが。結局、この艦隊はドイツにはたどり着けず、南米フォークランド沖海戦イギリス海軍と戦い全滅するのだからそれもあり得ない。

 1908年9月30日に進水した「大公号」が、「皇后号」とは別に親善訪問しているとも考えられないことはないが、それにしても戦争勃発後の1915年までの乗務記念としているところが解せない。

 なお、当欄の「オーストリア海軍の歴史その4」でも書いたが、「サウンド・オブ・ミュージック」で有名なトラップ“大佐”が、アドリア海と地中海で戦っていたオーストリア海軍のUボートの艦長であった当時、地中海に派遣されていた第二特務艦隊の駆逐艦「榊」がオーストリア海軍のUボートに魚雷で大破されている。
その大佐の軍服がウィーン軍事史博物館http://www.hgm.or.at/の海軍コーナーに展示されていた。

当欄関連記事
オーストリア海軍の歴史 その1」http://d.hatena.ne.jp/Europedia/20060718
オーストリア海軍の歴史 その2」http://d.hatena.ne.jp/Europedia/20060719
オーストリア海軍の歴史 その3」http://d.hatena.ne.jp/Europedia/20060720 
オーストリア海軍の歴史 その4」http://d.hatena.ne.jp/Europedia/20060721 


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