海外の旅行ガイドブックを振り返る その1

 1974年に初めて海外旅行に出たとき、個人旅行に役立つ日本のガイドブックは皆無であった。なにしろ、ガイドブックのほとんどは大手の旅行会社か航空会社がスポンサーとなって出版されており、パック旅行参加者への副読本的なものばかりであり、見知らぬ異国でのホテルの取り方や食費などの物価、公共交通機関の乗り方などにふれたものは全くなかった。そのような時代に頼りになったのはアメリカのアーサー・フロンマー氏http://www.frommers.com/が出していた「1日$○○の旅」シリーズのガイドブックだった。学生食堂の利用の仕方から学生寮の泊まり方、鉄道や観光バスの割引特典の活用法など「目から鱗」の情報に大感激したものだった。しかし、最初は1日$5だったシリーズも$10、$15、$20、$30と順調に予算アップし、「$50以上の旅」となってしまい、今ではただ「Frommer's Europe 2004」と表記されるようになった。これは、インフレを反映しているばかりではなく、著者と読者が豊かになり扱うホテルやレストランも高級化していったせいでもある。同シリーズの高級化とともに、個人的にはよりバックパッカー向けのLet' Goシリーズ http://www.letsgo.com/やオーストラリアのロンリー・プラネット社http://www.lonelyplanet.com.au/のShoe Stringsシリーズなどのガイドブックの方を愛用するようになった。
USA Todayのウェブサイトに昨日Lonely Planet boss still a traveler, but these days in styleという興味深いインタビュー記事http://www.usatoday.com/travel/destinations/2004-12-28-lonely-planet_x.htmがあった。
1972年に夫妻でロンドンからオーストラリアまでの旅に基づいて書いた"Across Asia on the Cheap" の大ヒットをきっかけに、今や世界最大級のガイドブック出版社をオーストラリアに築いたTony Wheeler社主は、現在はファーストクラスを利用する身分になったものの、今でも一年の半分はバックパッカー・スタイルの旅をしていて、この11月には自ら取材して執筆した“East Timor”を出版したそうだ。その彼が「将来のガイドブックは、携帯電話、モバイル・コンピューター、位置情報システムが一体化したものとなるだろう」と述べている。
上に挙げた世界的ガイドブックの出版社は例外なくウェブ上でガイドブックのコンテンツを公開しており、いつでも“モバイル・ガイドブック”に打って出られる態勢にある。
これに比べて日本のガイドブックのインターネット対応はお寒い限りだ。これは、多くのガイドブックが下請けに頼っていることもあって情報の多元的運用に困難が伴うためや、ExpediaやTravelocityなどのようにガイドブック出版社の提供する旅行情報をオンライン販売に活用しようという斬新なオンライン旅行販売サイトが生まれていないからだろう。また、21世紀の半ばまでには海外渡航者数が1千万を割るだろうと言われているように、日本語だけのマーケット規模ではウェブ化のコストが将来負担できないことも新たな投資をためらわせているのだろう。
 ロンリー・プラネット・シリーズはメディアファクトリーhttp://www.mediafactory.co.jp/books/lplanet/から日本語版が出されているが、翻訳なのでおおむね1年前後は英語版より遅れるようだ。ガイドブックでこの1年というのは致命的で、私なら少々言葉のハンディはあっても英語の最新版を使うだろう。
☆写真は 1963年に翻訳出版されたFrommer氏の「ヨーロッパ1日5ドルの旅」(日本評論社刊)