蚤の市やオークションハウスを覗いてみよう

25年ほど前にヨーロッパでアンティークを買い付けて、日本に送るというアルバイトをしていたことがある。素人なのにおそれ多くも著名なアンティーク鑑定家の店にアンティークを送り、小遣い稼ぎをするという無謀なことをやっていたのだ。口惜しいことに、その鑑定家の方の指示通りに買い付けた何の変哲もないピルケースやガラス瓶、古着といったものは日本ですぐに売り切れ、私が独断で「これは売れる」と思って買ったものはことごとく売れ残った。
 「売れないものを送るな」と叱られながらも、徐々に見る目が養われたようで、最後には、地元のバイヤーの手助けもあって少しは目利きになったと思ったが、単なる勘違いかもしれない。今でも、有り難いことに「アンティーク・ドールは眉の太い怖そうなものを選べ」、「人形の衣装が化繊かどうかは繊維を一本燃やしてみろ」、「油絵は塗りの薄さを見ろ」、「カメオは漫画チックな線でないものを選べ」などと先輩の教えが甦り、ショッピングの際に役に立つことがある。  
 初めてヨーロッパに行くと舞い上がってしまい、とんでもない品に大枚をはたく人をよく見かける。そういう恐れのある人には、買う前に、ハプスブルク家宝物館や銀食器展示館など今でも王朝絵巻が繰り広げられているところに行き、正真正銘のホンモノに目を慣らしてからショッピングに行くことをすすめている。そうすれば、機械仕上げの安手のレプリカなどたちどころに見破れる、はずだ。

 買い物の達人でない限り、あまり高価なものを置いてない蚤の市から見て回るのがおすすめだ。ウィーンの蚤の市でお店を開いて不要品を売ったこともあるが、千円程度のショバ代を稼ぐのも難しいほどにサッパリ売れなかった。よく見ると、蚤の市で売っている人の半分は自分の家の机の引き出しを抜いてきてそのまま開店したような素人。みな、客との駆け引きを楽しんだり、青空の下での日光浴を楽しむレジャー気分の人々だった。そう考えれば、ショバ代も安いものだ。
 さて、蚤の市での値切りの勘どころは1/3位に値切って、半額程度で妥協して買うといったところだろう。値切りにかかるときは、相手に、まけなければならない理由を並べ立てるのが肝心だ。自称ギリシャの雄弁家の子孫たちは、理詰めにからっきし弱い。もし、相手がしぶとく応じなかったら、惜しい顔をしながら、背中に哀愁を漂わせつつゆっくりと店を離れ、最後の一声がかかるのを待つのだ。ここで後ろから声をかけない店主は蚤の市の美学を知らないアホウである。
蚤の市を楽しむには、テーマを持って値切り歩くとよい。たとえば、天使の絵柄の古絵葉書や貴族の令嬢が舞踏会で紳士に踊りの予約を書き込ませた優雅な舞踏会の手帳、香水瓶や台所の壁に掛ける「母の愛は海より深し」などといった美辞麗句を絵と一緒に刺繍した飾り布、裁縫用の指貫といったようなものがよい。
 日本人がしつこく値切ると珍しいのか、よく、おまえは中国人かと言われたことがある。もちろん、そのようなときは“名誉中国人”の栄誉に浴し、「然り」と鷹揚に応えるのが、日出ずる国から来た者の礼節である。

蚤の市を無事冷やかし終えたら、オークションハウスに足を向けよう。美術館級のものが展示されているが、美術館と違って入場料を取られることはないはずなので手ぶらで行こう。出かける際には多額の現金を持って行かないこと。オークション会場の熱気に煽られ、つられて手を挙げるのを避けるためである。オークションが始まる前の内覧会で興味のある品の最低落札価格や能書き、表面の美しさの影にいかがわしさを秘めた様子などをよく見ておくと、目の色を変えて熱くなっている人々を冷ややかに眺める余裕が持てるはずだ。落札したら「旅行者なので付加価値税の免税手続きをお願いします」と申し出ること。数パーセントが戻ってくるはずだ。
オークションハウスからつつがなく手ぶらで帰ってきても安心してはいけない。自慢げに張り出してあった「ドット.コム」が正確に目に焼き付いていれば帰国後もインターネットでオークションに参加できるからだ。つくづく、嫌な時代になったものである。

 最後に青空市や蚤の市、ショッピングに関するサイトを列挙しておこう。
□Openair-Market http://www.openair.org/
アメリカ農務省ファーマーズ・マーケット
   Agricultural Marketing Service Farmers Markets http://www.ams.usda.gov/ farmersmarkets/
□Flea market directory http://www.keysfleamarket.com/
   「Flea markets by state」の項で各州の市を見つけることができる。
□About.com のOpen Air Markets - Street Markets http://goeurope.about.com/od/markets/index.htm
   トップページ中央のArticles & Resourcesの項の2番目にあるEurope - Open Air Market Links   のページが役立つ。 
□「Christie's」http://www.christies.com/
□iTravel iShop  http://itravelishop.com/
□「ヨーロッパ在住主婦リングへようこそ」http://www.webring.ne.jp/cgi-bin/webring?ring=eufnet;list
  ヨーロッパに住んでいる主婦の82に及ぶ手作りホームページをつないだ友達の輪
  “リング”。市場やスーパーでの買い物の苦労談も面白い。
国際協力事業団(JICA) 国別生活情報http://www.jica.go.jp/ninkoku/index.html
  食生活の項には市場やスーパーでの取扱品目も掲示

■「蚤の市」に関する当欄過去記事 http://d.hatena.ne.jp/Europedia/searchdiary?word=%c7%c2%a4%ce%bb%d4
☆右上の写真はウィーンのオークションハウスDOROTHEUM http://www.dorotheum.com/eng/index_e.html のアンティーク・絵画の展示室
isbn:1892145189 :detail